安全への取り組み:②自動運転の安心・安全について

こんにちは、ティアフォーのSafety Engineerの須永です。

ティアフォーの安全への取り組みを数回に渡って紹介していくシリーズの今回は第2回目になります。第1回目については以下をご参照下さい。

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最近、社内では機能開発に向けた実車機能テストが増えてきています。公道での実験もあることから、より一層、安全意識を持った実験を行う必要が出てきています。そこでティアフォーでは安全に関する社内の勉強会を隔週で開き、社内における安全意識と知識の醸成を図っています。

そのような取り組みの中で今一度初心に帰り、「安心・安全って何だろう?」ということの確認と自動運転の安全を確保していくための私達のアプローチを確認しました。今回の記事では、その内容をお伝えしようと思います。

そもそも安心・安全ってなに?

ティアフォーの中でも安心・安全の議論はよくされます。しかし人によって言葉の解釈が異なるので、話がかみ合っていないことが多々見られました。似たような言葉に信頼や品質という言葉もあります。この違いって何でしょう?

いろいろな観点があるのでこれが絶対的な正解だとは言うことは難しいですが、まずは安心、安全、信頼の言葉の意味を社内で定義してみました。

        

 安心

  • 主観的心理過程であり、定性的、相対的
  • 人の思い込み
  • 気にかかることがなく心が落ち着いていること

 安全

  • 科学的根拠があり、定量的、客観的、絶対値比較
  • 人に危害を加えない
  • 危害または損傷・損害を受けるおそれのないこと

 信頼

  • 科学的根拠があり、定量的、客観的、絶対値比較
  • 与えられた機能を続ける
  • 対象を高く評価し、任せられるという気持ちを抱く意を表す

 

安心なものは安全なのか?

安心とは、漢字の示す通り人の心が関与していて、不安を感じていなければそれは安心していると言えます。 つまり、安全でないものでも不安を感じなければ安心していると言えます。

 

安全なものは安心なのか?

安全とは、人やものに危害が加わるかどうかの確率です。危害が加わる確率が非常に低くくとも、その人にとって過去の経験から不安であったことを思い出させるようなことがあれば、それは安心しているとは言えなくなります。つまり、安全なものでも安心しているとは言えないものもあると言えます。

 

安心はどのように生まれるのか?

安心の反対である不安を人はどんな時に感じるかというと、期待を裏切られた時や悪い経験が惹起される時などに感じるもので、つまり現在あるいは過去に信頼を裏切られた結果として不安を感じるのだと思います。つまり、安心を得るためには信頼を裏切らない、信頼を回復して任せてもらえる状態にする、心を許してもらえる状態にすることが必要になってくると言えます。

 

安心・安全の関係性

安心≠安全だとすると、安心・安全の関係性について考えてみる必要が出てきます。

まず、何にせよ人が使う物に関して安全は必ず必要になります。その上でどう安心を提供するのかというと、その間に信頼が必要になってきます。ティアフォーでは、安全の上に信頼があって初めて安心が芽生えていくものだと考えました。 

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安心・安全・信頼の関係性

 

安心・信頼を得るために

これらを整理した上で、自動運転について安全を確保した上でさらに必要な安心を得るためには、信頼を得ることが必要であるとしました。信頼を得るためのアプローチとして、

  • 沢山走っても事故が起きないことを示し信頼を得ること
  • 実際に体験してもらい期待を裏切らないこと

が重要だと考え、ティアフォーでは信頼とその先の安心を得ていくために、自動運転を安心だと感じてもらうべく、また実際に体験してもらうべく日本各地での実証実験を日々繰り広げている状態です。

また、安全に関するティアフォーの取り組みを知ってもらい、安心を感じてもらうための取り組みとして、8月に日本語版、10月に英語版のSafety Reportを日本で初めて発行しました。この中にも記載がある通り、ティアフォーでは様々な環境下で自動運転が安全に運行できるかを細心の注意を払いつつ確認しながら、「自動運転の民主化」に重要な信頼を得るための実証実験をこれまでに約70回実施してきました。

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ティアフォーが行ってきた実証実験実績

これらの実験において、ヒヤリハットはあるものの事故にいたる実験はここまでゼロとなっています。このような積み上げを行うことで、「自動運転車は定められた走行領域(業界用語でいうODD:Operational Design Domain)内であれば安全に走れるんだ!」という安心感を提供できていると考えています。

 

安全と安全性の違い

ここまでは、言葉遊びではないですが何となく感覚的な話をしてきました。しかし、Deep Techを目指すティアフォーでは、ここまでの内容をエンジニアリング観点で定量的に表現できるように再整理をしています。

安心は人が感じるか感じないかが判断基準になるので、アンケートなどによって評価することはできるかもしれませんが、基準が個々人の中にあるため完全に定量的であるかというと難しいところです。

安全・信頼を定量的に示したい場合には、「安全性」や「信頼性」と言った言葉で表現ができます。 この2つの言葉は国際規格であるISO、日本規格であるJISにそれぞれ定めがあり、ティアフォーではこれらを基に「安全性」について以下の通りまとめ直しました。

 

 安全性

  • 人への危害または損傷の危険性が許容可能な水準に抑えられている状態
  • 許容可能でないリスクが存在しないこと
  • 人はミスをするまたモノは壊れるのでゼロリスクはない
  • リスク(人への危害)をどこまで許容するか決定する

 

この定義では、「安全性」はリスクをどこまで許容するかを決定し、その範囲内での安全を確保することになります。一般的にALARP (As Low As Reasonably Practicable) と言われる手法で合理的に実行可能な最低の水準までリスクを低減することを目標とします。

許容できるリスクの線引きをするということは、リスク=事故をゼロにすることを必ずしも目標にはしないということになります。「自動運転が実現すれば事故は完全にゼロにできるのでは?」と思うかもしれないのですが、不慮の事態などを考えると現実的にはこれを完全に実現するのはかなり難しいです。世の中一般に定められたルールの関係や「安全性」を高めるためのコストの問題など様々な制約があり、この制約内では100%リスクを減らすことは極めて難しいのです。そこで、この制約の中でどこまで「安全性」を高められるのかを線引きしていくことが重要となります。

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ALARPの概念図

現にいまの人間が運転する自動車に関しても、どんなに安全に気を付けてても事故は起きてしまっています。そのような状況でも自動車が公道を走れているのは、法律などのルールや最新の安全装置などで社会として許容可能な安全を確保し、許容できないところに関しては、保険などといった制度側にリスクを転嫁することでリスクがコントロールされているからです。

ALARPを定量的に示すためには、許容可能なリスクの発生確率や損害程度を定量的に定めて総合的に許容可能な範囲を決めていくことになります。

この考え方に基づいた考え方がリスクアセスメントの基本となっており、自動車の機能安全規格であるISO 26262における自動車安全水準 ASIL (Automotive Safety Integrity Level) だったり、自動車のセキュリティ規格であるISO 21434のCAL (Cybersecurity Assurance Level)になります。

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許容領域概念図

安全とコストとの考え方も上記でご紹介したSafety Reportの中で触れていますので、是非確認いただければと思います。

なお「信頼性」については、ISOとJISの定めを基にティアフォーでは以下の通りまとめ直しました。

 

 信頼性 

  • アイテムが与えられた条件で規定の期間中要求された機能を果たすことができる確率
  • 対象の損失コストを源流から抑えるもの
  • =Reliability(信頼性・信頼度)=Dependability = 含 保全性(maintainability)や可用性(availability)  

 

「信頼性」に関しては、主にサービスとしての可用性の部分で関係してきます。せっかく自動運転にしたのに稼働率が低く、メンテナンス工数がかかりかえってコストがかかるというような事態になってしまうと、それこそ企業としての信頼を損ねることになってしまいます。こちらについては、またの機会に詳しくご紹介したいと思います。

 

おわりに

今回は、安心・安全・信頼の言葉の違いやそれを定量化した時の考え方などをまとめました。ティアフォーの安全に関する考え方やこれから実現していきたいことに関してはSafety Reportにまとまっていますので、是非一読いただければと思います。

ティアフォーでは、自動運転の安心・安全を確保し「自動運転の民主化」をともに実現してくため、様々なエンジニア・リサーチャーを募集しています。もしご興味があればカジュアル面談も可能ですので以下のページからコンタクトいただければ幸いです。

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