西新宿における自動運転実証実験の振り返り

こんにちは、ティアフォーで自動運転システムを開発している木村と斉藤です。今回は2020年11月から12月にかけて行った西新宿における自動運転の実証実験の概要と振り返りをご紹介します。

なお、ティアフォーでは、自動運転の安心・安全を確保し「自動運転の民主化」をともに実現していくため、様々なエンジニア・リサーチャーを募集しています。もしご興味があれば以下のページからコンタクトいただければと思います。

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ティアフォーにおける自動運転の実証実験について

私たちが行う実証実験の目的は、お客様へのデモンストレーションから、新しい自動運転技術への挑戦、新たなオペレーション手法の検証などなど多岐にわたりますが、いずれも実証実験毎にそれぞれ具体的な目的を定めています。

今回の実証実験はビジネス視点ではサービスとしての成り立ちを見るための観点から行われましたが、私たち自動運転エンジニアとしての視点では3つの目的を持って取り組みました。1つ目は都心での実運用されている5Gを活用した遠隔自動運転の性能評価、2つ目はMobility Technologies様のアプリケーションと弊社運行管理システムとの連携、3つ目は新しいアーキテクチャとなったAutowareの公道検証となります。今回は、私たちが主に担当していた新しいアーキテクチャのAutowareを扱った自動運転システムを中心に振り返っていきたいと思います。ここでの新しいアーキテクチャのAutowareというものはAutoware Architecture Proposalとして私たちがAutoware Foundationに提案しているもので、このAutowareを用いた自動運転システムによって走行する車両を社外の方に公道でお見せするのは今回行われた西新宿における実証が初めてとなります。 

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西新宿における実証実験について

①11月の実証実験

11月に西新宿での自動運転実証実験を行いました。実験は2020年11月5日(木)から2020年11月8日(日)までの計4日間行われました。11月5日(木)は関係者試乗、他3日間は一般の試乗者を募集して乗車していただきました。

11月の実証実験ではジャパンタクシー車両をベースにした自動運転車両を1台用いました。初日以外の3日間は京王プラザホテルから新宿中央公園までの1km程度のコースを走行しましたが、初日は京王プラザホテルからKDDI新宿ビル内を経由し、新宿中央公園の前を通って京王プラザホテルに戻る2km程度のコースを走行しました。

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11月の実証実験で使用した走行ルート

実験中は安全のためドライバーとオペレーター(助手席)*1が乗り込んで非遠隔監視での自動運転走行を実施しました。それに加え、初日には運転席は無人で遠隔のドライバーが映像を通して監視しながら走行を行う遠隔型自動走行も行いました。

実証実験では東京都の宮坂副都知事にもご乗車いただき、「違和感のない乗り心地だった」という大変ありがたいコメントもいただきました。多くの関係者・一般試乗者の方に乗車いただきながら、西新宿という交通量の多い環境の中での実証実験を無事終えることが出来ました。

なお、11月の実証実験に関するより詳しい情報はこちらのプレスリリースをご覧ください。

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また、実証実験の様子は以下の動画をご覧ください。

www.youtube.com

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②12月の実証実験

こちらの実証実験は西新宿にて2020年12月8日(火)から2020年12月23日(水)までの平日計12日間で行われ、そのうち7日間は関係者試乗、5日間は一般者試乗という形で試乗を乗せての自動運行を行いました。

11月の実証実験と同様に西新宿で実施しましたが、12月の実証実験では最大3台のジャパンタクシー車両を同時稼働させ、試乗者が京王プラザホテル/東京都庁第二庁舎ロータリー/新宿中央公園の3か所から出発地・目的地を選択可能という形での運行を行いました。そのため11月に行った実証実験と比較して、多数台の稼働や複数ルートの走行などの要素が加わり、更に難易度を上げての実施となりました。

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12月の実証実験で使用した走行ルート

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三台のジャパンタクシー

本実証実験には12日間で計100名を超える試乗者の方に参加いただき、多くの方に自動運転を体験していただく機会となりました。西新宿という難しい環境かつ難しい条件での実験を通し、ありがたい事に多くの課題も見つかりました。そうしたことを踏まえながら実証実験の振り返りをしていきたいと思います。

なお、12月の実証実験に関するより詳しい情報はこちらのプレスリリースをご覧ください。

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また、実証実験の様子は以下の動画をご覧ください。 

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振り返り

実証実験では、西新宿という交通量も多く難しい環境の中で、多くの右左折を含むコースの走行、遠隔監視型自動走行、同時の複数台運行などの難しい条件が複合した実験となり、私たち開発者としても不安の尽きない日々でした。そのような中でも、自動運転をする上で特に難しかった/大変だったケースをいくつか紹介いたします。

障害物の誤検知

今回の実証実験でかなり悩まされたのが障害物を適切に検知することです。その中でも特に悩まされたのが歩道の段差や落ち葉です。

Autowareは、センサ情報から自動車・歩行者といった検出したいものを認識して結果を出力する「ホワイトリスト形式」、地面や雨・落ち葉といった検出したくないものを検出対象から除いて結果を出力する「ブラックリスト形式」の両方のアプローチで動作しています。この様に「ホワイトリスト形式」と「ブラックリスト形式」の両方を採用している理由は、例えば前方のトラックから急に荷物が落ちてくる、といったイレギュラーな事象にも対応するためです。

例えば今回の実証実験では、車道から新宿公園に入る際には20~30cmほどの段差がある歩道を通過する必要がありますが、その様な大きい段差がある場所では適切に地面除去できず、段差を障害物として認識してしまうことが起きていました。また、今回は秋の実験ということもあり落ち葉が非常に落ちやすい環境だったので、大量の落ち葉がまとまって落ちて来たり落ち葉が舞い上がったりすると大きな障害物としてみなされ、適切に除去出来ず障害物として認識されてしまうことが起きていました。今回の実証実験で明らかとなったこれらの課題を踏まえ、認識技術をより高精度な手法へと発展させていく取組を現在行っています。

交差点での素早い判断とスピーディな加速

西新宿で自動運転を行う上で、最も難しいことと言えばやはり交通量の多さが挙げられると思います。このような交通量が多い環境の中、今回の実証実験のコースには多くの右折が含まれていました。右折の中でも、特に難しい場所は右折信号のない交差点での右折です。右折信号がある場所では対向車両の流れが完全に途切れてから右折をすることが可能ですが、そうでない場所ではかなりシビアなタイミング判断が求められます。

ティアフォーの自動運転システムでは、安全のために前方車との衝突余裕時間(Time to Collision)を計算し、前方車との衝突がまず起きないコンサバティブな見積もりをして右折をします。これに加え今回の実証実験では、快適な乗り心地を実現するため車両の発進時には紳士的な加速を行う様に設定していました。しかしながら、このコンサバティブな見積もりに加えてこのような紳士的な加速を意識していては、交通量の多い西新宿の一部の交差点で時間帯によっては曲がるタイミングがなかなか得られないことがあり、信号の変わり目では乗り心地よりも素早い加速が求められるシーンがありました。このことから、西新宿のような交通量の多い交差点でもより自動運転サービスの可用性を高めることができるよう、人間の様にシーンに応じてコンサバティブさやアグレッシブさの加減を切り替えられるように今後取り組んでいきます。

複数の走行経路

ティアフォーが行ったこれまでの実験では走行経路が固定された1つに限られていましたしかし、今回の12月の実証実験ではより実サービスに近い設計となっており、3か所から出発地・目的地を選択可能となっていたことから、当日選ばれた組み合わせに応じて計6つの経路を走るという大変チャレンジングな取組を行いました。

Autowareでは信号や交差点、横断歩道、道路の優先関係などが紐付いた地図情報を用いて交通ルールを認識・判断しているため、実験で使用するコースを実際に走行してみて、問題なく走れるかどうか、地図情報が正しく現実と合っているかどうかなど様々なことを確認する必要があります。そのため、これまでの実証実験と同様の手法で全てを確認していたら、単純計算で6倍の時間がかかってしまいます。

そこで、今回は今まで以上にシミュレータをフルに活用することで、可能な限り現地に行かずに地図の検証等を行うことで時間を短縮し実証実験を乗り切りました。今後シミュレータの活用範囲をさらに広げていき、開発スピードもより効率化していきます。

車両個体差

最後に、大きな技術課題とまでは言えないものの地味に悩まされたのが車両個体差です。同じ種類の車両とはいえ、同じアクセルペダル、ブレーキペダルを踏んでも個体によって加減速の具合は全然異なりますし、同じハンドル操作をしても個体によってカーブの具合も全く異なります。また、タイヤ空気圧やブレーキパッドの経年劣化といった事象によっても車両の制御性は変わります。そういった個体差を吸収するためにそれぞれパラメタチューニングする必要があるのですが、どうしても実際に車両を動かす必要があるため、必要以上に時間が取られます。少し加減速の具合が違うだけでも思った以上に運転の滑らかさに影響するため、精細なチューニングが求められるのも中々難しいところでした。

今回の実証実験では台数も少なかったのでマンパワーで乗り切ることが出来ましたが、これが100台、1000台となってくると流石にワークしません。こちらの実証実験を通して、走っているうちに段々走行具合が滑らかになっていく様な自動チューニングの必要性を実感し、ティアフォーでも自動チューニングの仕組みを取り入れ始めています。

まとめ 

今回は西新宿の実証実験の概要と振り返りをご紹介しました。今回ご紹介したように、私たちの開発している自動運転ソフトウェアにはまだまだ課題が多くあります。これからも引き続きより良い自動運転のために精進していこうと思います。

謝辞

今回の自動運転実証実験は株式会社Mobility Technologies、株式会社ティアフォー、損害保険ジャパン株式会社、KDDI株式会社アイサンテクノロジー株式会社の5社の協業体制にて行いました。私たちが自動運転システムの開発に集中して取り組めたのも上記企業様の多大なご協力があってこそのことです。また、11月の実証実験は一般社団法人新宿副都心エリア環境改善委員会、12月の実証実験は東京都がそれぞれの実証実験の主催者として舞台を提供いただき実現しました。この場をお借りして深く感謝いたします。

*1:オペレーターというのは、自動運転システムで対応が困難かつ緊急性が求められる際に、自動運転システムに対する緊急停止などのソフトウェア的な介入や、ドライバーに対するオーバーライド指示を出す役割を指します